生徒会陣営男性メンバー応援SS

「危ないからお嬢ちゃんはあっちの部屋に行ってな」

「えー!どうしても駄目ですかー?」

ハルマゲドンを控え、静まり返った希望崎学園校舎内の空気を二色の声音が震わせる。
見れば、生徒会室前の廊下でふたつの影が問答を繰り広げている。

「立ち入り禁止」――そう物々しく書かれた立て看板を片手に、
生徒会室の入口に立ちはだかるのは、御厨一族が誇る超天才操心術士(自称)御厨槍太。

残念至極――そうはっきりと書かれているかのような表情で御厨を見上げるのは、
部外者ながらなんだかんだと今回のハルマゲドンに首を突っ込んでいる夢追中。

「今は男共で真剣勝負の最中だからな。
 ほら、お嬢ちゃんはあっちで女子共に構ってもらいな」

「うう……残念です」

御厨の言葉に肩を落とし、生徒会室前を後にする夢追。
そんな夢追の背中を見送り、その姿が見えなくなったことを確認すると、
御厨はくるりと振り向き生徒会室の扉を見つめ、溜息と共にひとりごちた。

「あーあ、中はどうなってんのかなー……」


―――


事の始まりは川端一人の何気ない発言であった。

「そんなことよりババ抜きしようぜ。魔人能力有りで」


―――


魔人能力の巻き添えにならないよう女子の面々は別の部屋に移動してもらい、
早速カードの準備に取り掛かる川端。
トランプは川端の所持品であるため、イカサマ防止のために川端自身はディーラー役である。

「いや、でも流石にババ抜きやるのに9人は多すぎじゃないか?」

そこへ突っ込みを入れたのは着流しを伊達に着こなす生徒会一の色男、揉岡乳左衛門。
女子だけだと心配だから俺はあっちに行ってるわ、と一声残して颯爽と退場。
あいつ絶対男だけのむさい部屋が嫌だっただけだろうと皆思ったがそれは口にしないお約束。

なお、余談であるがこの時に部屋の見張り役として白羽の矢が立ったのが御厨であった。
だってお前の能力ぴったりじゃん、との周囲の言葉に、御厨は一言も返す言葉がなかった。

さらに余談であるが一一は女子達と一緒に別室へ移動済みである。誰も異論は挟まなかった。

こうして最終的に決戦の場に残った戦士達は全部で6人。

太古の封印から甦りし伝説の魔人――揶魔吐追打彦。
立てばジェントル座れば紳士、紳士部部長――Mr.ディレクション。
歪みを断ち切る歪曲剣士――井上志郎。
豪壮にして美麗なるその姿、正に斧の如し――天刹院晶真。
オレはハスカールだああああ!!!!――いいいい。
不死身の園芸部が誇るファーマー――菜園場果樹丸。

かくして相手に危害を加えない限り魔人能力使用も有りの、
死力を尽くした男共の真剣勝負――その決戦の火蓋が切って落とされた。


―――


精神を削る緊張の連続。
次々に山へ捨てられるペアのカード達。
今、生徒会室はさながら決闘の行われる古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる。
互いが互いに真剣な表情を向け合い、いつ仕掛けるか、その時を窺っていた。
張り詰めた空気の中、カードをめくり、合わせ、捨てる音だけがやけに大きく聞こえる。
そして――全員の持ち札から、あと2順もすれば決着かと、そう思わせる状況に至りると、
俄かにカードを握る魔人達の目が輝きだした。
勝負の時である。

揶魔吐 → Mr.ディレクション

「我が神力を見せてくれよう!」
「はっはっは、まだまだ勝負はこれからですよ。ゆっくりいこうじゃあないですか」

まず能力を発動したのは揶魔吐。
己の所持枚数がMr.ディレクションよりも優位にあると見るや、
神力によって追い打ちの風を呼び起こし、望みのカードを呼び寄せた。
揶魔吐あがり。そして石化。残り5人。

Mr.ディレクション → 井上

「ひとつ、お手柔らかにお願いしますよ」
「悪いけど俺は本気で勝ちに行かせてもらうぜ」

井上 → 天刹院

「よし……」
「どうした?早く引かないのか?」
「これだっ!」
「ぬうっ」

事此処に来て、井上も仕掛ける。
井上は相手の歪みを見ることで動作を予測することのできる魔人。
その力を使い天刹院の持ち札から己が必要とするカードを引き当てた。
井上あがり。残り4人。

天刹院 → いいいい

「こうなっては仕方ない。俺も能力を使わせてもらうぞ」
「うおおおお!!!いつでもかかってきやがれええええ!!!」
「なるほど、これか」
「うおおおお!!!」

天刹院は自身の中二力によっていいいいの頭上に水晶玉を顕現。
水晶玉に反射したカードの絵柄を確認してペアカードを奪取。
いいいい以外は勿論この事実に気付いたが誰も文句を言うことはない。
これは真剣勝負なのだから。
天刹院あがり。残り3人。

いいいい → 菜園場

「うおおおお!!!俺は溜めた力を解放するぜええええ!!!」
「もう少し静かにカードを引けないものですかねぇ」
「ぐああああ!!!ばかなああああ!!!」

己の能力を存分にふるい、全力でカードを引くいいいい。
しかし力を溜めてももちろんカードを引くのには役に立たない。

菜園場 → Mr.ディレクション

「先日は色々とありがとうございました。なかなか改めて御礼を言う機会もなくて」
「いやいや。こちらこそせっかく招待状を渡しておきながらパーティーを開催できず、
 心苦しく思っておりました」
「ですが、今は真剣勝負の時、勝たせてもらいますよ」
「はっはっは。遠慮はいりませんよ」
「では……追い打ちの風!」
「なんと!」

勝負も最終局面、ここで菜園場が使ったのはあろうことか揶魔吐の能力、追い打ちの風!
見れば傍らで石化している揶魔吐の頭にいつのまにやら花が咲いているではないか。
既に種は仕込んであった!菜園場の能力、燎原寄生!
この追い風によってババを避けた菜園場。あがりである。残り2人。

タイマンとなったババ抜き勝負。
これが最後の攻防である。

Mr.ディレクション → いいいい

「これは参りましたな」
「うおおおお!!!さっさとこおおおおい!!!」
「まあここはどうしようもありませんからな」
「うおおおお!!!」

Mr.ディレクションがカードを引くも、手札が捨てられることはない。
既にお分かりと思うがMr.ディレクションの手にはババが握られている。
対するいいいいの手札は残り1枚。
状況はMr.ディレクションに不利だ。

「これは……仕方ありませんな。私も覚悟を決めて能力を使うとしましょう」
「うおおおお!!!やってみやがれええええ!!!」

札を引こうと身構えるいいいい。
ちょっとみなさんそちらへ移動してくださいと頼むMr.ディレクション。
Mr.ディレクションの背面側へ移動する他の面々。
今こそ決着の時。
おもむろに己の燕尾服へとカードを持たぬ手をかけたMr.ディレクションは……

「私……実は女なんです!!!」
「うおおおお!!!???」

なにやらいいいいに見せたらしい。
何かを見て固まるいいいい。あっけに取られて固まる他の面々。元から固まっている揶魔吐。

「おほん。さて、いいいいさん。どうぞカードを引いてください」

気付けばMr.ディレクションの手には1枚のカード。
いいいいはババを含む2枚のカードが握られている。
壮大なすり替えである。
が、衝撃から立ち直らぬいいいいがそのような些事に気付くはずもなく、
油の切れたロボットのようにぎこちない動きでカードを引くいいいい。
Mr.ディレクションの手札は0だ。
Mr.ディレクションあがり。


―――


こうして突如行われた生徒会男子勢ババ抜き大会は幕を降ろした。
勝者は言うまでもない。

「うおおおお!!!俺はいいものを見たああああ!!!」

いいいいである。


<終>