真の勝者

妃芽薗学園で勃発したハルマゲドンの大騒動も今は昔。
学園に籍を置く女生徒たちは平穏な日々を過ごしていた。
当時、生徒会メンバーとして騒動の中心にいた歌琴みらいもまた、アイドルのレッスンに精を出す日常へと戻っていた。
そんなある日の放課後、ひさしぶりのレッスン休日をゆっくりと過ごそうとしていたみらいの元へ、その人物は突如現れた。


夢追「こんにちは歌琴さん!生徒会室前で一瞥以来ですね!」
歌琴「あれ?ええっと、もしかして……夢追……さん?(なんか雰囲気違うような……格好とか髪型とか眼鏡とか)」
夢追「はい、夢追です。今日は先日のお礼とお詫びをしたいと思って伺わせていただきました」
歌琴「お礼とお詫び?」
夢追「生徒会室前で顔を会わせたとき、何も言わず見逃してくれたじゃないですか。おかげで知人を一人助けることができましたので、そのお礼を」
歌琴「ああ。なんか会長部屋で倒れてた男」
夢追「ありがとうございました」
歌琴「ん……(見逃したというか、心の整理ができてないときにまた顔を会わせちゃって何もできなかったというか)」
夢追「それと……その前の、あのとき、不意打ち気味に殴りかかってしまって申し訳ありませんでした」
歌琴「あぁ(殴り合いになったんだよね……私って何を言って殴られたんだっけ?興奮しちゃってて正直覚えてない)」
夢追「今度はちゃんと決闘を申し込んでから殴ります」
歌琴「いやそれはおかしい……じゃなくて、悪いんだけど私何言って殴られたんだっけ?あのときは何がなんだかわからなくなっちゃってて……」
夢追「あ……えっとですね、埴……友達のことを悪く言われたので、ちょっと私も頭に血が」
歌琴「(あの女のこと……か。どうしよう、本当に酷いこと言ってそうだな私)」
夢追「申し訳ありませんでした」
歌琴「ああ、うん。大体わかったからいいよ。別に殴られたことは気にしてないから」
夢追「そう言っていただけると……」
歌琴「それに確か私もあなたのこと殴った……よね?おあいこだよ」
夢追「う……」
歌琴「あれも理由覚えてないんだけど、私何言われてあなたのこと殴ったんだっけ?」
夢追「うぃ!?あ、いや、その節は……変なことを聞いてしまって……あの……その……」
歌琴「え、ちょっと待って、すごく不安なんだけど(なんで顔赤らめてもじもじしてるの?)」
夢追「あ、あの……歌琴さんが夢を追うためなら枕営業だってなんともないのって言って……私が枕営業ってなんですかって返事して……それで」
歌琴「うわぁ(私、そんなことまで言っちゃったのか)」
夢追「あ、あとで意味を調べまして……」
歌琴「うん。おっけー。わかったから。落ち着いて(この娘本当にお嬢様なんだろうなぁ)」
夢追「はい……」
歌琴「うん……そっか……(本当に心配そうにこっちを見てくるなぁ)
夢追「……」
歌琴「うん、全部わかってすっきりしたし、いいよもう」
夢追「!!……それじゃあ」
歌琴「仲直りってことで」
夢追「あ、ありがとうございます!」
歌琴「(ま、これ以上話聞いてたら私のほうが恥ずか死しそうだしね)」
夢追「そうです!そうしましたらお礼とお詫びと、それとできれば今後のお付き合いのしるしに、これを」
歌琴「ハンカチ?(あれ……今、マフラーの中から出てきた?)」
夢追「私が手織りしたものですけれど、よければ使ってください」
歌琴「へー、すごいね!それじゃあせっかくだし、ありがたく使わせてもらうね」
夢追「あ、あとこちらのを、生徒会の千坂らちかさんに届けていただけませんか」
歌琴「らちかちゃんに?いいけど……(またハンカチがマフラーから出てきた)」
夢追「あ、私は千坂さんになるべく近づかないようにと言われてまして……」
歌琴「ふーん?」
夢追「先日、千坂さんに良くしていただいたんで、そのお礼にと」
歌琴「うん、頼まれたよ……ところでこれ、どこから出したの?」
夢追「あ、これは私の住んでいる家、えっと付喪神なんですけど、その能力で家と私とを繋ぐことができるんです。それで家に置いてあるものを取り寄せてこうやって」
歌琴「へー(家の付喪神?便利そうだけど想像つかない)」
夢追「先日こちらに来たときも、今日も、その能力でこっそりこの学園へ忍び込んだんですよ」
歌琴「ああ、そうだったんだ」
夢追「前日の夜、闇に紛れて木くずを沢山撒いておきまして、家と家のものが置いてある場所とを行き来できるんで、外に置いたものの気が抜けるまではこう自由に移動できるんです」
歌琴「ふーん、なんだか凄いんだねー(気が抜ける?)」
夢追「はい!凄くすごいんです!もしお時間があるようでしたら是非ともご招待したいところです!庭では美味しい果物も採れますし、それに温泉だってあるんですよ!」
歌琴「へー、面白そうだし、ちょっと見てみようかな(凄い食いついたなー……というか、家に温泉かぁ)」
夢追「え?本当ですか!?」
歌琴「今日はゆっくり休もうって思ってたところだし、温泉って聞いたらいいなーって」
夢追「わぁ!それじゃあ夕食も気合入れて作らせてもらいます!是非是非、家でゆっくりお風呂に入っていってください!」
歌琴「(それにこの娘とは落ち着いて話をしたいとも思っていたし)」
夢追「それでは!早速ご招待します!ちょっと失礼」
歌琴「えっ!?(なんで抱きつかれてるの私!?)」
夢追「社!お願い!」
歌琴「え……きゃあ!(落ちてる!?え?周りが真っ暗になった!?)」
夢追「ぼふっと!はい到着しました!」
歌琴「え?え?あ、今のがさっき言ってた瞬間移動?(家の中……え、布団の中?)」
夢追「布団の中から行き来できるんですよ……あ、すみません、手が歌琴さんの下敷きになってるんで、ちょっと」
歌琴「あ、ごめん……(って、私が謝る必要ないよね。というか驚かされたのはこっちだし)」
夢追「歌琴さん?」
歌琴(ピコーン!)「(いいこと思いついた)」
夢追「??あの」
歌琴「ねえ夢追さんって、凄いこと見るためなら何だってするんだよね?」
夢追「え?はあ、出来ることなら大抵は」
歌琴「家にも連れてきてもらったし、私からも友情のしるしに凄いことを見せてあげよっか?」
夢追「!はい!!喜んで!!!」
歌琴「ふふふ(それじゃ体勢をぐるっと入れ替えて……なんだかんだ私の気持ちを騒がしてくれたし、これくらいお返ししてもいいよね)」
夢追「うぅ?」
歌琴「それじゃあ凄いこと見せてあげるから……(レッスンで鍛えた淫靡モード!)」
夢追「はぇ?」
歌琴「代わりに……」
夢追「?」
歌琴「私に、あなたが」
夢追「??」
歌琴「枕営業、してみてくれる?」
夢追「???………………は?へ?え?えぇぇぇ!!?」
歌琴「どう?(わぁ顔真っ赤になった!おお、ぷるぷる震えてる。見てて笑っちゃいそう……我慢我慢)」
夢追「あ……あぅ」
歌琴「ねぇ?(涙目になってきた。うつむいちゃって……わぁ上目遣いで様子見てる!駄目だ……まだ笑うな……)」
夢追「お」
歌琴「お?」
夢追「お願い……します……」
歌琴「………………くっ……くくっ」
夢追「あ、あの」
歌琴「あはははははははは!!!」

前半戦、勝者:歌琴みらい


日も落ちて、電灯の無いこの屋敷の闇は濃い。
蝋の溶ける甘い香りと、自在鍵に掛けられた鍋の香ばしい香りとが漂うここは、しかしその闇に引き立つが如く明るく優しい。
天井も、柱も、床も木で出来た客間。
灯明台に立てられた蜜蝋燭の灯りが囲炉裏を囲み談笑する少女たちの横顔を照らす。


歌琴「あはははは!あー面白かった!」
夢追「うぅ、からかわないでくださいよぅ」
歌琴「いやーごめんごめん。でもお願いしますって……くくっ……」
夢追「うぅぅ」
歌琴「それにしてもさ、くっ、本当にかなめちゃんって、くくっ、凄いこと見るのに全力だね」
夢追「わ、忘れてください……恥ずかしいぃ……」
歌琴「うん、でも」
夢追「?」
歌琴「本当に言い訳も誤魔化しもせずにお願いしますって言ったね」
夢追「うぅ」
歌琴「なんだかちょっと胸のつかえがとれた気分」
夢追「?」
歌琴「ちゃんと凄いこと見るって夢を追っかける覚悟が、ええっと、口だけじゃなかった……っていうか、ううん、散々もやもやさせられただけのかいは……うーん」
夢追「??」
歌琴「まだ整理できないけど、なんか良かったよ」
夢追「えぇっと?ありがとうございます?と言っていいんですかね?」
歌琴「面白かったからね!ホント笑った!」
夢追「結局それですかー!」
歌琴「あはは……ねえ、ところでかなめちゃんて逆に凄いこと見るよりも大事だー!ってものはないの?」
夢追「え?大事なもの?」
歌琴「うーんと、本当なら凄いこと見れるけどこっちを優先するぞー!とか、そういうの」
夢追「ああ」
歌琴「どう?」
夢追「う……その流し目はやめてくださいよ……えぇっと、友達の頼みや安全は優先しますね」
歌琴「へー、そうなんだー」
夢追「あれ?なんですその反応」
歌琴「あ、そういえばらちかちゃんに近づくなって言われてるだとか、あれもその友達の頼み優先ってやつ?」
夢追「はい。千坂さんの能力見てみたかったんですけど、一度会って、見せてもらえなくて、それでそのとき社にもう近づいちゃ駄目ーって」
歌琴「社ってこの家……の付喪神?だっけ?そういえば付喪神ーだとか喋れるーとか聞いてたからもっとふわふわしたのとか人の姿とか想像してたけど普通の古い家って感じだね」
夢追「みんなにも社の声が聞こえればいいんですけどね」
歌琴「そう、で、友達だっけ?」
夢追「はい、友達です」
歌琴「いや、凄いことより優先するって話のほうだけど、例えば凄いこと見せてやるからそいつをこっちに引き渡せー!とかそういうときは」
夢追「はい。そんなこと言う人はさっさと蹴っ飛ばします」
歌琴「ふーん」
夢追「なんだか微妙な反応されてる気がしますけど、そんなに意外ですかね?」
歌琴「いや意外っていうか、やっぱり夢よりも友人のほうが大事だよねーってことになるのかな」
夢追「あぁ……えぇっと、なんと言いましょうか……その辺のことは言うと色々誤解されそうで説明しにくいんですけど……」
歌琴「初めて会った日に顔面殴りあった相手に今更誤解もないでしょ!言っちゃえ言っちゃえ!」
夢追「私、これでも自分がかなり無茶してるって自覚はあるんですよ」
歌琴「びっくり」
夢追「そこであまり驚かないでくださいよぅ。えっとそれで、私は周りのみんなに支えられてやっと凄いことを好きなだけ追うことができるんです」
歌琴「あー、なんか言いたいこと分かった気がする」
夢追「はっきり言って、私は私を助けてくれる友達がいなければ一日で死ぬ確信があります!」
歌琴「ホントね」
夢追「ですから、私が夢を追うためには絶対に友達がいないといけないですし、だからこそ友達は大事にするんです」
歌琴「エゴイスト」
夢追「むー」
歌琴「冗談冗談。でもなんか納得したよ。友達大事にするのも夢追っかけるのに全力出した結果ってことだね」
夢追「まあ、そうなるんですかね。言葉にするとどうも……『友達だから』で十分な気がするんですけどね」
歌琴「そんなもんかもね(あれ?そういえばかなめちゃんて番長Gなのにハルマゲドン前に生徒会メンバーに接触とか、あれって友達に迷惑かかりそうなもんだけど)」
夢追「そんなもんですよ」
歌琴「(テンション上がると遠くのことまでは見えなくなるのかなー)」
夢追「?」
歌琴「なんでもないなんでもない。あとは何かあるの?友達以外で凄いこと見れるけどーって」
夢追「えぇっと……あとは取引もあまり好きじゃないですね」
歌琴「取引?」
夢追「凄いこと見せてやるからこれこれしろーって」
歌琴「まくら」
夢追「ごめんなさい本当にごめんなさい」
歌琴「ごめんごめん(テンション上がると周りが見えなくなるんだろうなー)」
夢追「いや、あの、えっとですね、その場ですぐにできるようなことならとにかく……あ、いや、さっきのはすぐにできるというか」
歌琴「さっきのことはいいから。ごめん、からかいすぎちゃった」
夢追「えっと、ですね、発動に時間がかかる能力を待つとか、発動の条件を整えるとか、そういうのでなく、代わりにこれやれーとか時間がかかる取引を持ちかけられたら大抵お断りするといいますか」
歌琴「へー、それこそ意外。なんだか頼めば何でもしてくれそうなイメージだけど」
夢追「なんだかむずむずしちゃうんですよ。こんなことしている間に他の凄いことを見つけたい!……って。時間がもったいないというんでしょうか」
歌琴「あーなんかわかるかも」
夢追「だから凄いことを見せてくれる人でも、なるべく策を弄するタイプとか搦め手タイプとか、そういう人とは敵対せずに穏便にって気をつけてますし、そういう能力はなるべく自分は巻き込まれないよう気をつけてます」
歌琴「時間がもったいない?」
夢追「はい」
歌琴「(絶対テンション上がって自分から能力喰らいにいくんだろうなー)」
夢追「何かさっきから微妙な間が」
歌琴「他にはなにかあるの?」
夢追「うぅん、ぱっと思いつくのはそれくらいですかねー」
歌琴「それ以外なら」
夢追「迷わず飛び込みます」
歌琴「(だろうね)」
夢追「あ、ちょうど良く鍋が煮えましたよ」
歌琴「おお!いい匂い!」
夢追「我が家特性雉鍋です!自信作ですからどうぞ!」
歌琴「いただきまーす」
夢追「ポイントはオウワシが獲ってくれた雉肉の熟成とちょっと早いですけど社に頑張ってもらったごぼうの……」
歌琴「なにこれ美味しい!ホント美味しい!」
夢追「わーいありがとうございます!」
歌琴「鍋ってこんなに美味しくつくれるんだ……(私がつくってもすごい大雑把な味にしかならないのに)」
夢追「歌琴さんもお料理はされるんですか?」
歌琴「え?えーと、うん、まあそこそこかなー」
夢追「どんなものをよくつくられます?」
歌琴「えー、パスタとか?チャーハンとか?あと冬には私も鍋を……」
夢追「おおー、多国籍」
歌琴「た、多国籍っていうか」
夢追「あ、それじゃあ今度は是非歌琴さんのつくられたお鍋を食べてみたいです!」
歌琴「こ、今度ねー」
夢追「わー楽しみです!」
歌琴「(どうしよう)」

後半戦、勝者:夢追中


かぽーん


歌琴「あーーーっ!気持ちいぃーーっ!」
夢追「お風呂はいいですよねぇ」
歌琴「広いお風呂は最高だねー!泳ぎたくなっちゃいそう!」
夢追「そうですねー」
歌琴「いやー、かなめちゃんはお嬢様だとは思っていたけれど、家に温泉があるって凄いねー。うらやましいなー」
夢追「えへへ、ありがとうございます」
歌琴「なんかかなめちゃんって家のこと褒められると凄い嬉しそうにするね」
夢追「そりゃあ社のことを褒めてもらってるんですから、友達が褒められたら嬉しいですよ」
歌琴「あそっか、この温泉もその付喪神パワーなんだっけ」
夢追「水源もないのに枯れないんですよ」
歌琴「ふーん、なんだかワープしたり野菜生やしたり温泉涌かしたりなんでもありだね」
夢追「あのプレゼントさせていただいたハンカチの素材も社謹製ですよ」
歌琴「コットン?」
夢追「はい。綿花も作ってくれる……えっと、採れるんです」
歌琴「はー、凄い」
夢追「はい!凄いです!」
歌琴「……あれ?ねえ、社とかなめちゃんって喋れるんでしょ?」
夢追「はい」
歌琴「もしかしてあのハンカチ持ってたら私のプライバシーがかなめちゃんに筒抜けだったりしない?」
夢追「あ!いえ!ちゃんと気は抜けてるのでご心配は無用です!」
歌琴「あ、そう、その気が抜けてるってどういうこと?」
夢追「あぁ、えぇっとですね、社の一部は、今回で言えばハンカチですが、能力……ここに来るときの移動能力ですね。あれを使うと社の意識が抜けてただのハンカチになるんです」
歌琴「意識が抜ける」
夢追「そうやって社の力がなくなることを気が抜けるって言ってるんですよ。ですから、あのハンカチは付喪神ではないので安心してください」
歌琴「ふんふん、なるほど」
夢追「あーそうです、妃芽薗に仕込んだ木屑も使う度にどんどん気が抜けるんで、そろそろ補充しないとこっそり忍び込めなくなりますね」
歌琴「へー」
夢追「あとその能力なんですけど、普通の瞬間移動能力と違って、社は移動先の様子を事前に伝えてくれますから、移動先でいきなり人とばったりなんてことがない優れもの!」
歌琴「うん」
夢追「さらに!例えばかまどの灰を一掴み用意しておけば、さらりと辺りに撒いてあとは社にふわふわ移動してもらって、周囲の索敵や情報収集もできちゃう!」
歌琴「ふーん……」
夢追「社の付喪神としての特性と、私の社と会話できるという能力によるコンボアタックですね!」
歌琴「……おっけー、りょーかい、社が凄いってよっくわかったよ」
夢追「あ……すみません、どんどんと喋っちゃって」
歌琴「でも社って本当になんでもできちゃいそうだね。凄いなぁ」
夢追「社が凄いのはもちろんですけど、歌琴さんも凄いと思いますよ」
歌琴「え?私?」
夢追「はい。ハルマゲドンのとき、番長Gの作戦会議で聞きましたけど、歌琴さんは生徒会の中でもトップクラスの凄い魔人能力だそうじゃないですか」
歌琴「あー……高二力フィールドのこと?確かに私より上って言うとらちかちゃんだけだけど……」
夢追「私にとってはそんな凄い中二力を持っているってだけで凄いなぁと思っちゃいます」
歌琴「ぅん……うん、んん……」
夢追「?」
歌琴「なんだか、不思議な感じ。……私の能力を褒められて、ちょっと嬉しかった」
夢追「……」
歌琴「ここ一週間くらいで色々……勝ったり、やっぱり負けたりして……でも、報われたって気持ちは確かにあって」
夢追「アイドルのお仕事のお話ですか?」
歌琴「仕事と……夢の話、かな。この前に散々話したけどさ」
夢追「はい……肉体言語付きのアレですね」
歌琴「ほんの一瞬だったけど、確かに報われて、救われて……頑張って良かったって思えた」
夢追「……」
歌琴「多分、あのときの私じゃ私の能力が凄いなんて言われても喜べなかったと思う」
夢追「うーん?」
歌琴「ああ、ごめん、分かんないよね。まあ……『こんなはずじゃなかった』なんて言ってないで夢を叶える気になったってところかな」
夢追「むむむ?」
歌琴「要するに、褒めてくれてありがとう」
夢追「あ、はい!どういたしまして!」
歌琴「はー……」
夢追「んんー……」
歌琴「……あーいい湯」
夢追「ありがとうございます」
歌琴「なんだかさー」
夢追「はい?」
歌琴「かなめちゃんに久しぶりに会って、最初はこいつに負けるかーなんて気を張ってたんだけどさー」
夢追「え?そうなんですか?」
歌琴「実は今日一日心の中で勝ったとか負けたとか思ってたんだけどさー」
夢追「なんと」
歌琴「なんかお湯に浸かってたらどうでもよくなってきたわー」
夢追「気に入ってもらえたならありがたいです、お風呂」
歌琴「うん……なんかさー」
夢追「はい?」
歌琴「ハルマゲドンのとき、場外で殴りあったりもしたけどさー」
夢追「そうでしたね」
歌琴「本戦でも勝ったり負けたりしたけどさー」
夢追「そうでしたねぇ」
歌琴「勝ったとか負けたとか関係なくさー」
夢追「はい」
歌琴「また温泉に入りに来ていいかな?」
夢追「大歓迎です」
歌琴「ありがとねー」
夢追「どういたしましてー」
歌琴「あー……」
夢追「ふー……」
歌琴「でも正直さー」
夢追「はい?」
歌琴「本戦で勝った負けた関係なくとか言ったけどさー」
夢追「はい」
歌琴「私ら遠くから眺めてただけだからそもそもあんま勝った負けたに関係ないよねー」
夢追「それを言ってはお終いですよ!」


さんきゅーおーるぷれいやー


歌琴「ところでかなめちゃんって足長いねー」
夢追「そうですね、武術をやる上で結構重宝してます」
歌琴「でもまあ……うーん……ふっ」
夢追「鼻で笑われたー!?どこ見てるんですか!」
歌琴「べーっつにぃー?」


さんきゅーおーるきゃらくたー


夢追「大体五十歩百歩じゃないですか!」
歌琴「何をー!えいっ!」
夢追「わっぷ!……ふふふ、私の両手がフリーのときに近接戦を挑むとは。私は両手を使えば攻撃力3割増し、防御力に至っては10倍にも届く!武術家としての実力をお見せしましょう!」
歌琴「きゃあ!ちょっとなにその水柱!」
夢追「えーい!」


そして……さんきゅーダンゲロス流血少女!





延長戦、勝者:なし





そして――

お嬢様とご友人のきゃっきゃうふふ、ごちそうさまでした。
これぞ眼福と言うべきでしょうか。ありがたいありがたい。

総合優勝:社