「どうもこんにちは。ええと、衿串さんでよろしいですね」
「はい、衿串ですけど……」
「私、希望崎学園から来ました夢追と申します。
番長Gの名簿を見ていて私と同じ漢字の名前が目にとまったもので、
ちょっとお話を伺いたいなと思って声を掛けさせていただきました」
「同じ漢字……私と?」
「ええ。衿串さんも『中』一文字ですよね?私も『中』一文字で『かなめ』といいます」
「ゆめさこかなめさん」
「はい。それで……衿串さんはお名前、何て読むんでしょうか?」
「ふぁいれくしあです」
「えっ」
「ふぁいれくしあ、です」
「ふぁ、ふぁい……?」
「ふぁいれくしあ……です」
「ふぁいれくしあ」
「はい」
「……えーっと、読み方の由来などあるのでしょうか?」
「あの、親が出生届にΦと書いて役所に届けたのが中と勘違いされたって……」
「ふぁい……というとギリシア文字の?」
「はい」
「……な、なるほど。えーっと読みを忘れないようメモしておきましょう。メモ帳と筆ペンを……」
「あ、片手じゃ……皆」
「「シュー!」」
「おや!蛇さん達、メモ帳を支えてくれるんですか!凄いですね!」
「皆すごく器用だから」
「ありがとうございます。蛇さん達、ふぁいれくしあさん」
「ふぁいでいいよ」
「それではふぁいさん。どうもありがとうございました。また後で」
「じゃあまたね。番長陣営で」
――
「Φと書いて中……なんでしょう。発想のスケールで負けた気分……」
「まずい!社!伏せるよ!」
どうしましたご主人様?近くに敵はいないようですが……ああ、小野寺さんですか。
どうして身を隠すのですか?報道部の先輩ですよね?
「見つかったら悪巧みに巻き込まれそうだから……よし、回避成功」
前々から思っていたのですが……ご主人様はどうして報道部に所属しようと考えたのですか?
今回の小野寺さんもそうですが、電話取材をしてくる先輩なども全力で回避していますよね?
それならいっそのこと部に所属しなくても良さそうに思うのですが。
「うん?言ってなかったっけ?えっとね、私が報道部に入った理由は3つ」
ほう。
「まず、せっかく学生生活するならそれっぽい部活動に入っていたほうがそれっぽいから」
適当ですね。
「次に、あの部長をびっくりさせたいから」
部長……確か、未来予報ですか、これから起こることがわかる能力者とか。
「うん……でも未来に何が起こるか全てわかるなんて寂しいし、
1から100まで決まったことしか起こらない人生なんてつまらないよ。でしょ?」
まあご主人様ならそうでしょうね。
「私なら100まで決まっているとわかったら、この両足で102まで歩きたい。
両足が動かなかったなら両手で102まで這いずりたい。
全身が動かなくても……社とオウワシが私を102まで運んでくれるよね?」
これは重要な任務を承りましたね。
「だから、あの部長にも絶対に102を見せてあげたいなって」
目論見は成功しましたか?
「……最後に、部長が普通、というか真っ当な人だから」
話を強引に進めましたね。
ええ、まあ、なるほど。真っ当な人がトップ、というのは確かに重要ですね。
「特に希望崎は凄いことを起こせる人と同じくらい困った人も多いから……」
モヒカンザコが闊歩する土地ですからね。
「だから今回の女子校には結構期待していたんだ。どんなところかなーって。
でもさ、なんだろう。アキカンさんは駆け回っているし、モザイクさんは蠢いているし、挙句」
みなまで言わなくてもわかりますよ。
「……うん。なんだか結局、いつも通りだったね」
ご主人様、ほら、大きな入道雲ができていますよ。
「……格好良いねー」
「はー……結局、ここでは運命の出会いはなかったなー」
やはり病気の症状が出ているときは大人しくしていろということでしょうか。
「そうなのかなー……ん?あれは……」
どうしました?……ああ、生徒会陣営の……歌琴みらいさんでしたか。
「元気がなさそうだけど……歌琴さーん!」
ご主人様は相手が敵対組織の一員だということをもう少し……仕様がないですね。
歌琴さんもこちらに気付きましたね。
「あなたはこの前の……」
「はい、夢追です。歌琴さん、あまり元気がないようですが、どうしました?」
「うん……私の能力……男の人にしか効かないんだけど……番長Gに男の人いないから……。
それに私、能力使用以外、得意じゃないし……」
「……歌琴さんっ!」
「はい?」
「同志と呼ばせてくださいっ!」
「えっ」
ダンゲロス、それは奇妙な名前と常識に囚われない存在と使用不能能力者が欠かせない世界――。