ご主人様は今日も自室で読書ですか。
おや、雑誌をお読みになってらっしゃる。
何を読んでいるのでしょう。
「んー?美容と健康の特集。『食生活で健康な身体に生まれ変わる』って……さ」
……なるほど。
今は夏の庭の果樹園が良い時期です。ちょうど食べ頃の美味しい桃を差し上げますよ。
美味しいものを食べれば、心はすぐに元気になりますよ。
「わ!桃!やった!ありがとう社!やっぱり夏は桃の季節だよね。
本当、この特集に載ってるものより桃を食べたほうが元気になれそうな…………へぇ」
どうしました?何か目新しい情報でも載っていましたか?
「『人体の細胞は90日で入れ替わる』だって。まあ誇張表現かもしれないけど、食べ物が人の身体になるのって早いんだね」
………………ほう。
――次の日
ご主人様。世の中には穀物や野菜、果物だけを食べて健康になろうという手法があるそうですね。
幸い、そういったものは私の菜園で全てまかなえますし、試してみてはいかがでしょう。
私の菜園で採れるものは他所のものより秀でていると自負していますし、昨日の雑誌にならって90日間、試してみては。
「うーん……90日間も治らないままっていうのは想像したくないけど、体が動くようになるまでは試してみるのもいいかも」
お早い決断、流石です。
それでは、はりきって美味しいものをたくさん作りますよ。
――これで90日後には、お嬢様の身体は私の身体の一部で出来上がっているということに――
「うん?何か言った?」
いえ、さっそく桃を用意いたしましょう。
90日後が……楽しみですね。
「そうだねー」
「んんー!桃はやっぱり美味しいね!」
「桃好きだもんね(喜んでるなぁ)」
「なんだか三食桃だけで満足できちゃいそう」
「うん……(社の中で出来た食べ物ってことは、社は自分の身体を分け与えているようなものだよね)」
「桃ってどうしてこんなに美味しいんだろう」
「うん……(献身……だなぁ)」
「夏以外でも桃が出来ればいいのにねー」
「うん……(負けたくないなぁ)」
「でも桃ばっかり食べてたら夏バテになっちゃうかな」
「そうだね……(私にも何か出来ないかなぁ)」
「最近暑いし、何か力のつきそうなもの食べたほうがいいかな」
「!」
「?」
「あ、あのさ」
「うん」
「力のつきそうな物、なんだけど」
「何かあるの?」
「えっと、その、ね、よかったら……」
「うん」
「わ、私の卵!食べてみる!?」
「えっ」
※卵を食べた夢追は非常に難しい顔をした後、「誰にも負けないぞ!ってくらいに強く自分を訴えかけてくる味だね。うん、力は本当につきそう」との感想を述べた。肉食鳥の卵は食べるものじゃないね!
ご主人様、この際確認しておきたいことがあるのですが。
「なあに?」
あの鳥もご主人様を常に護っていますし、私もご主人様を常にお護りしております。
私とあの鳥と、お互いに補い合い、ご主人様を助けております。
どちらも負けじと、全力でお救いしております。
「うん、いつも助けてもらってる」
私の決してあの鳥には負けていないと思ってはおりますが、鳥の献身もまた確かなものであると思っております。
ですから――
ご主人様にとっての一番の守護者――その者の名前を教えていただきたいのです。
「ええ!?社にはいつも護ってもらっているし、オウワシには助けられっぱなしだし、一番なんて決められないよ。
……なんて言っても納得しないんだよね?うーん………………
ひとりだけ……選ぶなら……」
選ぶならば?
「師匠、かな」
※社の武道場に住む、夢追のお目付け役兼身辺警護兼武術指南役のこと
――
「ちょっとちょっと!私の寝床をいつまでもゆらさないでよ!
私はあなたの言葉はわからないんだから一方的に絡まれたって何が言いたいかわからないよ!
どうしたのさ!何かあったの!?いい加減に寝かせてよ!
……かなめー!かなめちゃーん!!カナー!!!
ちょっと社のことどうにかしてー!」