夢追急行(ゆめおいきゅうこう)心行き〜夢追中(ゆめさこ かなめ)の朝〜



ん……

朝……かな。

小鳥の囀り……聞こえてるね。
んー、天井……見えてるね。
右手も動く、左手も動く、右足も動く、左足も動く。
頭もはっきりしてきた……よし。
おはよう。今日。



障子を開ければ縁側越しに見える朝の日差しと枯山水の中庭。
裏にまわって井戸水で顔を洗えばもうしゃっきり。
さらさらさらさら、ときどきかぽんと音を立てるししおどしは今日も頑張ってます。

下駄をつっかけ土間へ降り、かまどの前で一思案。今日は何を食べようか。

居間の囲炉裏でお鍋がぐつぐつ。今日の朝餉は雑炊です。
具が煮えるまで手持ち無沙汰だから、灰ならしで囲炉裏の灰に絵を描こう。
波千鳥なんていかがでしょう。モチーフは私のお友達。
ちょうどお鍋が煮えました。お匙を持って、いただきます。
うん、ちょうどいい塩梅だ。どうやら味もしっかりわかる。
今日は楽しくなりそうだ。

鏡で自分の身なりをチェック。おかしなところはないよね。
服よし髪よし笑顔よし。
……眼も腫れてなんかいないよね。

それでは元気に行ってきます!……のその前に。

今日も忘れずにやっておこう。
門の前でひとり、精神集中。
周囲の景色が遠のくよう。どこか青味を帯びた気がする。
潮が引くみたいにサァッと音が後ろへ流れ去っていく感覚。
自分の周りにきらきら煌く星の光が満ちている。
奇跡を見たいと願う思いは、世界にこんなにも溢れている。
ひとつひとつの光は淡くて儚げで、ともすれば見失ってしまいそう。
だけれど沢山の光をつなぎあわせれば、そこにはきっと綺麗な星座ができあがる。
そんな星座を見に行こう。
沢山の人の願いを乗せて、私という汽車は走り出す。
目的地は私とあなたとみんなの心。
夢追急行、心行き。
ノンストップで参ります。

さあて、気合は十二分。
奇跡を見たいと願う思いは、世界にこんなにも溢れている。
私は溢れるその願いを、ひとつの星座に仕上げてみせる。
さあ、今日も凄いことが沢山起きますように!

集めた願いを空へと投げる。

どこかの誰かにぶつかって、凄い奇跡が起きますように。
そしてわがままが許されるなら、その奇跡の真っ只中に私がいられますように。


***


「朝から能力発動するんだから……」
「えへへ、今日も学校までお願い」
「私はタクシーでも専属の運転手でもないんだけど」
「もちろん!私の大親友だよ!」
「あぁもう……。断れないなぁ」
「今日も空の散歩は快適だねー」
「今日は晴れたからねー」