そう、そのまま飲み込んで。ウチのハリセン

「なんでやねん!」

新参陣営総合本部に今日も朱音多々喜の声が響いた。
……が、いつもなら直後に続くであろう朱音の持つハリセンがたてる快音が、今日ばかりは轟かなかった。
なぜならば、今日、朱音のツッコミを受けたのは同じ新参陣営の諸語須川てけりであったからだ。
髪の毛(触手)を自在に動かす魔人である諸語須川は、自分の後頭部に襲い来るハリセンの風切音に驚き、思わずハリセンを髪で咥え込んだのだ。

「ちょっ!ウチのハリセン!」
「ごごごめんなさい!急に突っ込まれたから!」
「そんな締め付けんなや!ウチのハリセン全部咥え込まれてもーたやん!」
「あっ……やぁん!あんまり乱暴にしないで!」
「そんなんゆーならはよ離しぃや!自分で締め付けといて!」
「そんっ……なぁ……こと、言われてもっ!びっくりしちゃってて……」
「ええーいっ!こんなんでウチのツッコミを止められると思うなや!」
「な……何を、んっ!……する気?」
「アンタ丈夫やろ!ダイジョブや!ほなイクで!」
「もしかして……『ハリセン・BON!』ですかぁー!?」
「Yes!Yes!Yes!」
「コレ一応髪の毛なんですよー!?中はやめてー!」
「もう我慢できへん!……ええかげんに……せいっ!!!」
「きゃあああああ!」



無事にハリセンの拘束は解けたが、息を荒げて教室の床に突っ伏す2人。
諸語須川の頭がアフロヘアーになっているのは信頼と実績の伝統芸である。

と、そこに教室の扉をおずおずと開き新参陣営の面々が入ってきた。
いつもなら暑苦しいくらいに元気な新参メンバーのしおらしい様子に首をかしげた朱音は、能力発動による疲労もものともせず立ち上がった。

「なんや、元気がないで!そんなんじゃ古参共をギッタギタにできへんやろ!」

――しかし、そんな朱音の喝にも、いつもなら打てば響く新参メンバーが皆、落ち着かない様子で朱音と諸語須川のほうを窺っている。

梨咲みれんや稲荷山和理、夢追中は頬を染め、朱音の視線に気付くとあらぬ方向を見出し……
緑風は気恥ずかしそうに朱音と諸語須川をちらちらと見比べ……
巨堂斧震は体をまごつかせながら宇宙人でも召喚しそうな手の動きを披露し……いやこれはいつも通りだ。

「な、なんやねん」

周囲の態度に戸惑い、そう言った朱音へと1人の人物が近づき、肩を叩いて声をかけた。
鶴崎一途であった。

「さきほどはお楽しみでしたね」
「んな!?」

鶴崎の発言の意図を理解し、赤くなる朱音。
そんな動揺する朱音に対し、続けて審刃津志武那が声援を送った。

「俺は応援するぞ。多々喜嬢」
「ちょ!?」
「だが、やることをやるなら場所を選んだほうがいいな。ここは新参メンバーの共同空間だ」
「いやいやいやいや!?」

珍しく守りに入り、うろたえる朱音であったが――

「待って!」

背後から思わぬ味方が現れた。先程までへたり込んでいた諸語須川である。

「朱音は悪くないの!私があんなことしたから!朱音はただ我慢できなかっただけなの!」

伏兵であった。


「なんでやねん!」「あんっ!」


――その後、周囲から総ツッコミを受けてうろたえ続ける朱音という、非常に珍しい光景が見られたという。